Industry Monthly
2026年6月 業界マンスリー
Pharmaceutical industry, this month
医薬品業界の政策・市場・技術の動きを、公開情報をもとに毎月まとめてお届けします。
制度・薬価
財政審建議、2027年度薬価改定の「完全実施」を求める
財政制度等審議会は6月26日、建議「人口減少と不確実性の時代における国力の強化と財政運営」を取りまとめた。2027年度薬価改定について、奇数年度であることを理由に対象品目や算定ルールを限定することなく、偶数年度と同様に「完全実施されるべきである」と明記。あわせて70歳以上の患者自己負担割合を原則3割へ引き上げる工程表の作成なども提言している。
出典: 財務省 財政制度等審議会Expertの視点
中間年改定の「完全実施」は、財政の論理としては一貫しています。ただ薬価を下げ続けた先に待つのが供給停止や撤退であれば、負担を減らしたはずの患者が薬そのものを失うことになります。
成長戦略会議、特許医薬品市場の「世界並み成長」を目標に
政府は6月24日、日本成長戦略会議(第5回)を経済財政諮問会議と合同で開催し、戦略17分野の官民投資ロードマップ案を提示した。「創薬・先端医療」分野では、海外市場と遜色のない国内市場となるよう、特許品の市場規模について世界の成長に比肩する成長を目指すと明記。米国の最恵国待遇(MFN)価格政策により製薬企業の上市戦略が不透明になり、日本で治験が実施されないリスクにも言及した。
出典: 内閣官房 日本成長戦略会議Expertの視点
同じ月に、財政審は薬価を下げ切れと言い、成長戦略会議は市場を世界並みに伸ばせと言っています。この矛盾を政治が引き受けないまま現場に降ろせば、しわ寄せを受けるのは新薬を待つ患者です。
骨太の方針2026原案、2027年度薬価改定を明記
政府は6月30日の経済財政諮問会議に「骨太の方針2026」原案を提示。創薬イノベーションと医薬品の安定供給、国民負担の軽減の観点から2027年度薬価改定を実施すると明記し、費用対効果評価制度の見直しや、特許期間中の薬価を含む革新的新薬の評価の検討を盛り込んだ。OTC類似薬の保険給付見直しの対象拡大検討も記載された(閣議決定は7月)。
出典: 内閣府 経済財政諮問会議Expertの視点
原案は「イノベーション」と「負担軽減」を並べて書いていますが、並べただけでは方針になりません。患者から見れば、次に必要になる薬が日本で発売されるかどうかが、この一文の解像度に懸かっています。
6月の追補収載、初後発は10成分39品目
6月12日付で後発医薬品の追補収載が実施され、初後発は10成分39品目となった。抗ヒスタミン薬ビラノア錠(ビラスチン)には10社13品目が参入したほか、デザレックス錠、レボレード錠、フィコンパなどが収載された。
出典: CloseDiExpertの視点
後発品への切り替えは患者の自己負担を直接軽くしますが、1成分に10社が並ぶ構図は供給の安定と表裏一体です。安く作れることと、切らさずに届け続けられることは、必ずしも同じではありません。
市場・経営
米国の薬価下げ政策、日本でドラッグロス懸念
日本経済新聞は6月13日、米国の最恵国待遇(MFN)薬価政策により、日本で低い薬価を受け入れると米国市場でも値下げを迫られるため、製薬大手が日本での新薬発売の見送りを示唆し始めていると報じた。政府の成長戦略会議の資料でも、同政策により日本で治験が実施されないリスクが指摘されている。
出典: 日本経済新聞Expertの視点
ドラッグロスは、値段の話が患者の手元に届く薬の有無に変わる瞬間です。日本の薬価が世界の価格戦略の変数になった以上、安く買い叩くことのコストは、もはや企業ではなく患者が払う構造になりつつあります。
武田薬品、ジュリー・キム氏がCEOに就任
武田薬品工業は6月24日の第150回定時株主総会をもって、ジュリー・キム氏が代表取締役社長CEOに就任した。12年間トップを務めたクリストフ・ウェバー氏は退任。キム氏は2019年のシャイアー買収を機に武田入りし、血漿分画製剤事業や米国事業を率いてきた。
出典: 医薬通信社Expertの視点
国内最大手の経営交代は、日本発の創薬がこの先どこに投資されるかを映します。患者から見れば、誰がトップかよりも、どの疾患領域に資源が向くかが自分の治療の有無を決めます。
ジーエヌアイ、あゆみ製薬を約450億円で買収
ジーエヌアイグループは6月5日、解熱鎮痛薬「カロナール」を手がけるあゆみ製薬ホールディングスを完全子会社化すると発表した。株式取得額は約450億円で、負債を含めた総額は1000億円超とみられる。米ブラックストーン、東邦ホールディングス、久光製薬の3株主から取得し、あゆみの販売網を自社製品の拡販に活用する。
出典: 日本経済新聞Expertの視点
カロナールのような定番の解熱鎮痛薬は、利幅は薄くても医療現場が日々頼る基盤です。ファンドから事業会社へ株主が移ることで、短期の回収より供給の継続が優先されるかが見どころです。
大塚製薬、米Transcend社の買収を完了
大塚製薬は6月15日、子会社の大塚アメリカを通じて米バイオテックのTranscend Therapeutics買収を完了したと発表した。全株式の取得対価は7億ドルで、売上マイルストンに応じ最大5億2500万ドルを追加支払いする。同社はPTSD治療薬候補「TSND-201」を開発中で、第3相試験が進行している。
出典: 大塚製薬Expertの視点
PTSDは有効な薬物治療の選択肢が乏しく、患者が長く取り残されてきた領域です。精神科領域に大型の資金が入ること自体が、これまで後回しにされてきた疾患への評価が変わりつつある兆候だと見ています。
5月のドラッグストア販売額8363億円、7.3%増
経済産業省が6月29日に公表した商業動態統計速報によると、5月のドラッグストア販売総額は8363億円で前年同月比7.3%増。調剤医薬品は831億円(6.8%増)、OTC医薬品は877億円(3.4%増)で、伸びを牽引したのはビューティケア(10.7%増)や家庭用品(11.5%増)だった。店舗数は2万741店に増加した。
出典: 流通ニュース(経済産業省 商業動態統計)Expertの視点
調剤も伸びている一方で、成長を牽引しているのは化粧品や日用品です。ドラッグストアが地域の健康の窓口として期待されるなら、売り場の主役と、担ってほしい役割のずれをどう埋めるかが課題になります。
製品・技術
新有効成分8製品を承認、蕁麻疹に国内初のBTK阻害薬
6月19日、新有効成分含有医薬品8製品が製造販売承認された。特発性の慢性蕁麻疹に対する国内初のBTK阻害薬「ラプシド錠」(レミブルチニブ)、免疫性血小板減少症で初のBTK阻害薬「ウェイリズ錠」(リルザブルチニブ)、HR陽性/HER2陰性乳がん向けの次世代SERD「エトカマ錠」(カミゼストラント)などが含まれる。同日、効能追加21製品も承認され、「ウゴービ」のMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)への適応拡大も認められた。
出典: 新薬情報オンラインExpertの視点
慢性蕁麻疹は命に関わらないと軽く見られがちですが、痒みと睡眠障害で生活の質を確実に削る疾患です。既存薬が効かない患者に新しい作用機序が届くことの意味は、承認件数という数字には表れません。
放射線治療計画AI、クラスIII承認で国内初
アイラト株式会社は6月26日、放射線治療計画AI支援ソフトウェア「RatoAI」の製造販売承認を6月24日付で取得したと発表した。高度管理医療機器(クラスIII)のプログラム医療機器で承認を得た国内スタートアップは初。CT画像上で全身100部位以上の正常臓器の輪郭抽出を支援し、機械学習モデルが線量分布を推論して治療計画の作成を支援する。
出典: アイラト(PR TIMES)Expertの視点
放射線治療計画は熟練者の手作業に依存し、輪郭抽出だけで数時間を要することもあります。AIが治療の質を均す方向に働けば、どの病院にかかるかで結果が変わる状況を減らせる可能性があります。
※ 本レポートは公開情報をもとにYap株式会社が編集したものです。「Expertの視点」はCEO 山本正也(NewsPicks Expert)による見解です。各項目の詳細は出典元をご確認ください。
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