Industry Monthly
2026年9月 業界マンスリー
Pharmaceutical industry, this month
医薬品業界の政策・市場・技術の動きを、公開情報をもとに毎月まとめてお届けします。
制度・薬価
厚労省2027年度予算概算要求、病院DXに2,561億円超・総額は過去最高の36兆5,803億円
厚生労働省は2027年度予算の概算要求で、クラウドネイティブ型電子カルテの普及支援(604億円)などを含む病院DX関連予算として2,561億円超を計上した。概算要求の総額は前年度比1兆5,370億円増の36兆5,803億円で、過去最高を更新。電子カルテについては、2028年度までに200床以上の病院で電子カルテ未導入を「ゼロ」にする目標を掲げるほか、2030年末までに①電子カルテ普及率約100%の達成②地域の拠点病院に対するサイバーセキュリティ対策の実施③大病院向けクラウドネイティブ型製品(電子カルテ・部門システム)が提供される環境の整備——を目指す方針を示している。
出典: 全日病ニュース No.1109(2026年9月15日号)1面・3面Expertの視点
電子カルテの普及目標が示される一方、現場で実際に効率化を実感できるかは運用設計次第である。クラウドネイティブ化は一見するとベンダー都合の議論に見えるが、データの可搬性や災害時の事業継続性という点では患者側にも関わる話であり、予算の規模だけでなく『誰のためのDXか』を追い続ける必要がある。なお『200床以上の病院で未導入ゼロ』という目標は、裏を返せば200床未満の病院・診療所はこの目標の対象外であり、電子カルテ普及の恩恵が病院規模によって先に届く順番があるという点は見落とされやすい。
日本バイオシミラー協議会、EU・米国・日本のバイオシミラー承認ガイドライン比較資料を公開
日本バイオシミラー協議会(JBSA)が公開する資料「EU・米国・日本のバイオシミラーに関するガイドライン等の主な比較」では、海外で承認された製品を対照薬として用いる際のブリッジング試験(品質・非臨床・臨床PK/PD)の扱いについて、三極の規制上の考え方が整理されている。日本では国内承認品と海外承認品の品質比較試験結果等に基づき両者の同一性を説明する必要がある一方、EU・米国では分析比較データを基盤としつつ必要な臨床ブリッジングの範囲をケースバイケースで検討する枠組みが示されている。なお同資料は協議会が各国ガイドライン等を和訳・整理したものであり、資料自身が「原文の内容を必ずしも正確に反映したものではない」と留保を付けている点、および特定の月の新規発表物ではなく継続的に参照される資料である点は申し添える。
出典: 日本バイオシミラー協議会(biosimilar.jp、資料内の記載では2026年7月時点の情報に基づく)Expertの視点
バイオシミラーの開発コストを左右するのはブリッジング試験の範囲であり、三極の要件差は開発戦略そのものに直結する。国内の患者にとっては、海外で先行する製品を日本でどれだけ早く・妥当なコストで使えるようになるかという供給の話でもあり、規制の技術論に見えて実は患者アクセスの話でもある。ただし本資料は協議会による和訳・要約であり規制当局の一次見解そのものではない点には留意したい。
市場・経営
国内医薬品市場、2026年8月は単月9,185億円・前月比7.5%減——キイトルーダが35カ月連続首位
エンサイス株式会社の月間スナップショット(薬価基準ベース、2026年9月4日公開)によると、2026年8月の国内医療用医薬品市場は単月9,185億円で前月比7.5%減、前年同月(9,009億円)比では2.0%増となった。2026年度(4〜8月)の累計売上金額は4兆7,808億円で、前年同期(4兆6,182億円)を上回る水準。製品別の単月売上上位20製品では、抗PD-1抗体「キイトルーダ」が192億円で引き続き首位、「マンジャロ」157億円、「デュピクセント」125億円が続いた。日刊薬業の報道では、キイトルーダは同データで35カ月連続の首位維持と報じられている。なお各製品に付記される伸び率(CMGR)は前月比ではなく、過去12カ月の売上高から算出する月平均成長率である。
出典: エンサイス株式会社「月間スナップショット(2026年8月)」、日刊薬業「キイトルーダ、35カ月連続でトップ 8月度・エンサイスデータ」(見出し・リードのみ確認、本文は有料)Expertの視点
単月の7.5%減だけを見ると後退のように映るが、前年同月比では2.0%増であり、市場そのものが縮んだわけではない。むしろ注目すべきは、肥満症・糖尿病領域のマンジャロが単月157億円まで伸び、上位の顔ぶれが代謝疾患領域にじわりと寄ってきている点である。
田辺ファーマ、希少疾患治療薬デルシメラゴンの全世界権利をLEO Pharmaへ譲渡完了・米国で承認申請受理
田辺ファーマは、赤血球造血性プロトポルフィリン症(EPP)およびX連鎖性プロトポルフィリン症(XLP)治療薬として開発中のMT-7117(デルシメラゴン)について、米FDAが優先審査の対象として新薬承認申請を受理したこと、および同剤の全世界における開発・販売権をLEO Pharmaへ譲渡する契約が完了したことを発表した。田辺ファーマは一時金および直近のマイルストーンとして最大4億3,500万米ドルを受領し、今後はマイルストーン達成時の追加支払いおよび売上に応じた段階的ロイヤリティも得る。FDAの審査結果は2027年2月末頃に示される見通し。
出典: Mixonline「田辺ファーマ EPP及びXLP治療薬候補・デルシメラゴン LEO社への全世界の権利の譲渡完了」(2026年9月18日)Expertの視点
自社で開発を進めてきた候補を、FDA申請が受理されたタイミングで海外企業へ全世界権利ごと譲渡する判断は、希少疾患領域において、化合物を生み出す力と各国で承認・供給まで持っていく力が別の企業に分かれて担われる例の一つである。患者にとって大事なのは開発・販売の主体が誰かではなく、承認後にどれだけ早く必要な国に薬が届くかであり、譲渡後のグローバル展開の進み方を追う価値がある。
患者・生活者の受療行動
インフルエンザ治療薬の処方患者、8月後半に週3.7万人へ急増——2023年シーズンに次ぐ高水準
インテージヘルスケアが2026年9月11日に公表したニュースリリースの見出し・副題によると、2026年8月後半にインフルエンザ治療薬の処方患者数が週3.7万人規模へ急増し、記録的な流行となった2023年シーズンに次ぐ高水準となった。副題では例年に比べ早期の流行拡大で、秋以降の動向が注目されるとされている。本文の詳細(調査方法・年齢層別内訳等)は見出し情報からは確認できていない。
出典: インテージヘルスケア(2026年9月11日、見出し・副題のみ確認)Expertの視点
例年より早い時期の処方急増は、学校行事や人の移動が増える時期と重なりやすく、医療機関側の受け入れ体制と、在宅での重症化対応の両方に負荷がかかりやすい。詳細な流行曲線や年齢層別の内訳は確認できておらず、見出しの数字だけで『今年は例年より深刻』と断定はできない。
医療機関を受診するか市販薬を使うか——症状の重さで分かれる生活者の意向(首都圏・関西圏調査)
インテージヘルスケアが首都圏(京浜)・関西圏(京阪神)在住の16〜79歳の男女2,523人を対象に2026年4月8日〜5月20日に実施した意識調査によると、症状の種類・重さによって『医療機関を受診すると思う』『市販薬を使うと思う』という意向が大きく異なることが明らかになった。高熱では84.2%が医療機関受診の意向を示す一方、一時的な頭痛では62.5%が市販薬使用の意向にとどまり、慢性的な頭痛・片頭痛でも56.5%は医療機関受診の意向を示している。発熱時に受診を判断する体温の目安は『38.0℃以上』が41.3%で最多だった。なお本調査は実際の受療行動ではなく、意向(そう思うと回答した割合)を聞いたものである。
出典: インテージヘルスケア(2026年9月16日)Expertの視点
セルフメディケーションの推進という政策の方向性と、生活者が実際に抱く『このくらいなら市販薬で様子を見る』という体感の間には、症状の種類ごとに大きな幅がある。一律に『軽症は市販薬へ』と促すのではなく、症状別にどこまでが妥当な自己判断の範囲かを示す情報提供の設計が求められる。本調査は首都圏・関西圏在住者が対象であり、また回答は意向ベースであるため、全国の実際の受療行動と同一視はできない。
※ 本レポートは公開情報をもとにYap株式会社が編集したものです。「Expertの視点」はCEO 山本正也(NewsPicks Expert)による見解です。各項目の詳細は出典元をご確認ください。
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